隔離†ダンスフロア マリーおかえり記念 忍者ブログ
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がんばってるマリーにやさしくしよう計画。



といいつつ、本人はでてきません。いつものふたりです。
捏造設定満載、死武専時代。兄と妹と弟。









【Brother Sun,Sister Moon】



「なあ、シュタイン」
 カフェテラスのオープン席に座り手を振りながらガールフレンドたちを見送るスピリットが、顔に愛想笑いを貼り付けたまま、彼女たちとは反対隣で本を読んでいたパートナーに話しかける。
「中央塔の展望台、西側の一番端」
 シュタインは昼食をとるためにこの場にやってきただけで、ガールフレンドとの談笑のひとときを楽しむスピリットに付き合う理由はない。いつもならばさっさと食事を済ませて図書館なり中庭なり読書に適した場所へ移動したがるのに、今日に限っては少女たちが発する高めの声に囲まれながら、黙って持参した本を読んでいた。
「えっ……」
「だから、中央塔の展望台の、西側の一番端、木箱が置いてあるところの辺りだよ。マリーの居場所が知りたいんだろ」
 同じことを二度も答えさせられたことに機嫌を損ねたのか、本から視線を上げ少々投げやりな口調で返す。自分の聞きたいことを質問する前に答えを返されたスピリットは、ガールフレンドに振っていた手を硬直させたまま、シュタインの少々不健康そうな透き通る色白の顔を凝視した。
「おまえ、実は魂の波長とかで人の考えていることが読めるとか?」
「そんなことが出来るならもっと有効に使ってるよ」
 明らかに莫迦にしたような声音のいらえが返る。
「じゃあなんで判ったんだよ」
「いくら俺があんたのガールフレンドに興味がなくても、隣りで延々と知り合いの噂話を面白おかしく話されていれば耳に入るさ」
 職人として申し分ない天才と称されるものの変わり者で有名なシュタインから知り合いと呼ばれるような間柄の人間は、この死武専でもそう多くはない。先ほどまで賑やかに話をしていた女子学生たちは、女の子のパーソナルデータ量については死武専一と目されるスピリットならば面識があるだろうとは予測できても、そのパートナーと噂話の主に親交があるとは考え付かなかったようだ。よもや、自分達が話題にしている少女の初恋の相手が、このシュタインだ、などとは。
 マリー・ミョルニルが、またパートナーとのコンビを解消した。
 明快な性格と可愛らしい容姿の彼女だが、その実パートナーとの相性にはあまり恵まれていないようで、入学して間もない頃から面識のあるスピリットが知る限り、これで5人目だった。パートナーシップ解消の理由は公には明かされないのが死武専の伝統なので、解消したという事実のみが憶測の尾ひれをまとって流布される。少女たちはマリーに悪意を持っている訳ではなく、ただ美味しい昼食のお供に少しばかり毒々しい色をした甘味のような軽話をしていただけでしかない。実力主義の死武専にあっては、品のない詮索や揶揄も実力で払拭するのが正しい手段だった。
 それでも、個人的な知り合いが無責任な噂話の的にされるのはいい気がしない。話の途中でシュタインが態度に出さなかったのは、自分自身が頻繁にその立場になり、且つ相手にするに値しないと思っているからだ。
 しかし相棒に対する根拠ある陰口すら気分を害するようなスピリットにとっては、いくらかわいいガールフレンドとはいえ一緒になって笑えるような話題ではなく、本に視線を落としていたシュタインには、彼の魂がしずんでいくのが波長を通して感じられた。
「マリーのところに行きたいんだろ? 行ってくれば?」
 いま自分を見ている碧の瞳も、その赤い魂も、あの少女が心配だと訴えている。
「おまえは行かないのか?」
「俺が行って何ができるのさ」
「いや、だって、マリーはおまえのこと」
「俺はマリーを慰める気なんかないし、気休めになるような便利な言葉もその資格もないよ。スピリットでないと」
 彼女が欲しているものを与えることは、自分にはできない。できると言ってしまうのはより残酷なことなのだということを、シュタインは自覚していた。
「俺が女の子の扱いに慣れてるからか?」
 思い当たるふしはありすぎるものの、今更パートナーにそう指摘されると何だか日常の態度を責められているような気がする。
「女に甘くて口が上手くて、魔武器だから」
「……そっか」
 スピリットは固まっていた右手をそのままシュタインの頭に乗せ、少し癖のある白い髪をくしゃくしゃとかき混ぜる。
「ちょっと行ってくるわ、サンキューな」
 子ども扱いに憮然としたシュタインが愛用のメスを取り出す前に、テーブルに手をついて立ち上がりそのまま中央塔の入り口へ走り出す。
 黒い長身と赤い髪の相棒が姿を消した方向を見届け、天才と称される白い職人は、相棒を口実に授業をエスケープする算段をその優れた頭の中で巡らせた。





マリー・ミョルニル。

雷の属性を持ち、職人の運動神経を一時的に引き上げる能力を持つ。
驚異的な破壊力を発揮する優秀な魔武器であるものの、しかしその力は未だ発展途上にあり、彼女の性格も相まってしばしば「やりすぎ」てしまう。
目標達成を目指す余り、職人の運動能力を最大限にまで引き出してしまい、結果並の職人ではその反動に耐えることができなかった。
マリーの職人は度重なる反動に限界を訴え、献身的な癒しの波長を併せ持つ彼女は、その度に大きな心の傷を受けることとなった。


ついた通り名は「粉砕」------そこから揶揄される影の名は「職人潰し」


彼女が成長し最も力を発揮するためには、その能力とこころをまるごと受け止めることのできる頑強な身体と大きく繊細なハートを持った職人をパートナーにする必要があった。

マリーが運命の相手に出会い、死武専最強を冠されるシュタインや名を変えたスピリットと共に大きな波乱を迎えるのは、まだ先のこととなる。



【おしまい】


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